回は、中小企業経営者の皆様に向けて、忙しい中で新規事業/新規プロジェクトを立ち上げ、成功させるポイントについてお話していきたいと思います。大企業に比べフットワークが軽く、柔軟に新規事業にチャレンジできるイメージの中小企業なんですが、本業と並行しながら新しく事業を立ち上げ成功をつかむのは至難の業です。そこで今回は、中小企業が新規事業を始める際に注意する点や成功の確率を上げるポイント、立ち上げのステップ、などなど盛りだくさんお伝えしたいと思います。
そもそも中小企業が新規事業に取り組んで成功する確率はどのぐらいなのでしょうか?なかなか具体的な数字を出すのが難しいですが、いくつかのデータがありますので、参考に見てみましょう。まず、日本政策金融公庫の「中小企業の新事業展開に関する調査」によると、中小企業が新規事業に取り組んだ場合、成功と失敗がほぼ半々であることが示されていて、明確に「成功」と答えた企業は、約10%しかありませんでした。また、2017年の「中小企業白書」では、新規事業を始めた企業の約30%が「成功した」と答えているというデータもあります。これらを見ると、成功は容易ではないことがわかります。
しかし、これらのデータはあくまで主観的なものであり、新規事業の成功を評価するタイミングによっても結果は当然、変わります。これらのデータから新規事業の成功率は大体10%から30%と考えられますが、成功の定義は事業計画や目標によって大きく変わります。例えば、長期的なプロジェクトでは、初期段階で成果が出なくても、時間をかけて育てれば成功につながることもあります。実際に、私がかつて関わった新規事業は、立ち上げから5年後に成果が見え始め、10年後にはさらに発展していました。
さらに、2017年版「中小企業白書」のデータからは、新規事業を展開した企業がそうでない企業と比べて経常利益率が向上していることも明らかになっています。これは、新規事業に取り組むこと自体が経営全体にプラスの効果をもたらしているということを示しています。以上から、新規事業に挑戦することはリスクを伴いますが、計画的に取り組むことで成功の可能性を高め、長期的な観点から経営に良い影響をもたらす可能性があると言えます。
新規事業を立ち上げる際には注意点がいくつかあります。ここでは、特に注意が必要な3つの点を見ていきます。まず、新規事業を立ち上げる際の注意点は、「資金繰りの甘さ」をなくすことです。良いビジネスアイデアが生まれると、うまくいくような気がするものですが、創業時の事業計画がそのまま軌道に乗って成功する確率はごくわずかです。なかなか売上が立たず、創業時に用意していた資金がだんだんと減っていき、経営者や事業責任者が焦り始めることが多くあります。焦ってしまうと、深く計画を練らないまま収益性の低い事業に手を出したり、無理な借入れをして返済に追われたりして負のループに陥る可能性が高くなるので注意してください。特に自己資金が少ないと、金融機関からは返済能力が低いとみなされ、追加融資が受けづらくなる可能性があります。「資金繰りの甘さ」をなくすには、創業時の自己資金として初期費用と半年分の運転資金を準備しておきましょう。
また、事業計画書はうまくいかない場合を想定して、いくつかパターンを作成しておき、撤退を決断するタイミングを決めておくこともおすすめしておきます。次に注意するポイント2つ目は、市場規模や顧客ニーズの読み間違いを防ぐことです。事前に分析をしっかり行っていたとしても、机上の空論、分析結果だけを信頼しすぎるのは禁物です。実際に事業を開始してみてわかることは少なくありません。予想していた売上の7〜8割を立てられれば新規事業は成功したといわれますが、多くの場合、何らかの要素の読み間違えによって思いのほか売上が上がらないまま推移してしまいます。「想定していたより市場規模が小さくて売上が見込めない」「競合が多すぎる」といった場合は、苦労して始めた事業でも勇気を持って再度考え直すことが大切です。特に、予想していたほどマーケットにニーズがなかった場合は、余計なお金を使う前に思い切って撤退する選択も考えておきましょう。最後、3つ目の新規事業を立ち上げる際の注意点は、周りからの協力をどのように得るかということです。
例えば、社内の新規事業立ち上げにおいては、営業やバックオフィスなど関連する各部署との連携が大切です。新規事業立ち上げに関わるメンバーとはもちろん、他部署や上司とも積極的にコミュニケーションをとっていくことでスムーズに進められるでしょう。また、起業する際は、取引先を確保できるかどうかが重要になるため、営業力が弱いときは昔の同僚や上司、友人知人といった縁を頼るのも一つの手です。売上が立たなければ生活費にも影響するので、家族の協力を得ておくことも必要になります。そのほか、税理士に相談することで、資金計画を立てたり、融資を受けたりする際にサポートしてもらえます。特に資金の読み間違いは大きなリスクとなるため、専門家に相談しておくと安心です。
新規事業や新規プロジェクトを立ち上げる際には、次の手順のように細かなローンチプロセスに分けて構想を固めていくのがおすすめです。
STEP1.新規事業立ち上げの担当者を決定しチームをつくる。新規事業を立ち上げる最初のプロセスは、「新規事業立ち上げの担当者/責任者を決定する」ということです。まずは事業を立ち上げ、推進する中心人物を決めましょう。そして、一人に任せるのか、チームで行なうのかを決めます。コンテスト形式で事業アイデアを募り、良さそうなものの発案者をそのまま担当者に据えるのもいいでしょう。そして、適切な人をローンチチームに迎え入れましょう。この方法には、「多様なアイデアを集められる」「発案者という熱量の高い人物を担当者にできる」といったメリットがあります。
STEP2.事業の理念やコンセプト・ビジョンを明確にする。新規事業を立ち上げる2つ目のプロセスは、「事業の理念やコンセプト・ビジョンを明確にする」ということです。市場やユーザーのニーズに応えることも大切ですが、「その事業を、なぜ自社がやるのか」という軸も欠かせません。確固たる軸を持つことで自社の強みを活かし、市場でのポジションをより確立しやすくなります。そのために、企業理念や既存のビジネスとのシナジーを考えたり、照らし合わせながら、新規事業のコンセプトとビジョンを模索することが大切です。
STEP3.市場調査・事業調査を行う。新規事業を立ち上げる3つ目のプロセスは、「市場調査・事業調査を行う」ことです。市場や競合他社を調査し、どのようなニーズがあるのか、何が障害になりそうなのかを分析します。SWOT分析という手法は有名ですが、ここでは事前アンケート、街頭調査などのさまざまな手法を用い、たくさんのデータを集めましょう。
STEP4.顧客のニーズを検討する。新規事業を立ち上げる4つ目のプロセスは、「顧客のニーズを検討する」ことです。市場調査や事業調査、アンケートやインタビューで集めたデータを分析し、顧客のニーズを探ります。顧客本人も自覚できていない本質的かつ潜在的なニーズ(顧客インサイト)を掴むことを意識すると、より深い分析・検討ができるでしょう。ここで気をつけたいのが、「客観的であること」です。特に、特定の課題への当事者意識が強い場合は、独りよがりになったり、感覚頼りになったりしてしまいがちです。客観的かつ定量的なデータを元にし、冷静な判断をしていきましょう。
STEP5.事業モデルを検討する。新規事業を立ち上げる5つ目のプロセスは、「事業モデルを検討する」ことです。どんなに良いアイデアでも、企業として持続的に取り組む以上、再現性と収益性を考える必要があります。マネタイズの方法を検討してください。どのようにマネタイズをするのか、利益をどこで確保するのか。収益構造について検討する必要があります。そして、次の事業計画を立てるときに、収支計画についても検討します。
STEP6.事業計画を立てる。新規事業を立ち上げる6つ目のプロセスは、「事業計画を立てる」というステップです。ビジネスモデルキャンバスはあまりにも有名ですが、次のようなフレームワークを使うと、計画を具体化しやすいでしょう。
①ビジネスロードマップ:大きな目標を達成するまでの、起こりうる問題とその解決策、中間目標を抽出する手法。②リーンキャンバス:顧客の課題や主要指標、コスト構造などの9項目を軸に考える手法
③ロジックツリー:マインドマップのような形式で、計画や問題を細かな要素に分解する手法。などがあります。ワークするフレームを使って、事業やプロジェクトのあるべき姿、在りたい未来を明確にするとともに、途中のマイルストーン目標も明確にしていきましょう。時間と品質についての認識をローンチチーム内で統一することは非常に重要なことです。
STEP7.適切な人材をアサインして実行する。新規事業を立ち上げる7つ目のプロセスは、「適切な人材をアサインして実行する」ということです。STEP6で立てた計画をもとに、どんな人材がどのくらい必要なのかをハッキリさせ、人選をします。それぞれ異なる強みを持つ人材を、プロジェクトの進行度合いに合わせてアサインするのがベターです。
新規事業立ち上げに取り組むことには組織において他にも多くのメリットが考えられます。「既存のリソースやブランド力をフル活用できる」というメリットです。このメリットを活かすことは、新規事業を成功させるうえで極めて重要なことです。特にこのローンチプロセスで次の5つのことを意識すると、既存事業も新規事業もより成功を確かなものとすることに繋がります。
1つ目「自社の強みを活かす」です。新規事業の立ち上げを成功させるために重要な1つ目のことは、「自社の強みを活かす」ことです。既存の生産・流通・販売のラインや社内に蓄積されたノウハウなど、活かせるリソースはないか探してみましょう。既存顧客のセグメントや、自社の顧客になってくれている理由を分析することも、自社の強みを把握する際に有効です。
2つ目「必要なリソースを把握する」です。新規事業の立ち上げを成功させるために重要な2つ目のことは、「必要なリソースを把握する」ことです。事業計画や収支計画を立てる際に、各工程でどのくらいのリソースがいるのかを明確にします。「ヒト・モノ・カネ・情報」の4要素を軸にそれぞれ何が、どのくらい必要なのかを考えましょう。実際に計画書を作成することで、見える化していくことがおすすめです。
3つ目「必要最低限の人材をアサインする」です。新規事業の立ち上げを成功させるために重要な3つ目のポイントは、「必要最低限の人材をアサインする」ことです。それも適切な人を。新規事業の立ち上げ段階からたくさんの人材をアサインするのはおすすめできません。人数に比例してマンパワーは大きくなりますが、コミュニケーションのスピードや濃度は落ちてしまいます。マンパワーやコミュニケーションスピードのバランスを考えると、立ち上げ当初は少数精鋭の2〜3人のローンチチームで走り出すのがベターだといえます。
4つ目「補助金や助成金を検討する」新規事業の立ち上げを成功させるために重要な4つ目のことは、「補助金や助成金を検討する」ことです。補助金・助成金は国や自治体などの公的機関による支援制度で、返済不要な事業資金が手に入ります。世の中が推奨している仕組みをフル活用していきましょう。手続きや審査にそれなりの手間はかかりますが、ノーリスクで資金調達できます。また、審査をクリアすることは、公的機関に事業が認められたことになるため、社会的な信用を向上させることにもつながります。新規事業の立ち上げだけでなく、雇用や事業の維持に役立つものも多いです。資金調達を考えるとき、まずは使えそうな補助金・助成金がないかを確認するとよいでしょう。
5.事業撤退ラインを決めておく。新規事業の立ち上げを成功させるために必要な5つ目のことは、「事業撤退ラインを決めておく」ということです。どんな事業にも、成功する保証はありません。新規事業での損失が大きくなり、企業全体の経営を圧迫するような事態は避けるべきです。投資を始めた後は、サンクコスト(投資した時間や費用などのコストの中で回収不可能な費用)のために意思決定が難しくなってしまいます。時間とお金の投資に対して、あらかじめ撤退ラインを設けておけば、損失を最低限に抑えることができるでしょう。「これ以上は後がない」というラインを設定することで、立ち上げメンバーの覚悟も決まります。覚悟が決まれば一点集中、あとは行動するだけです。
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